Never Enough和訳(The Greatest Showman)
Never Enough(満たされない)
この歌のシーンを劇場で観れただけで、この映画を観に来て本当に良かったと思った
この曲自体は、ジェニー・リンドがバーナムに抱く恋心を歌ったものだそう。実際に劇中でも、歌いながらジェニーがバーナムを熱く見つめる描写がある。でもこの歌はそれだけではない。登場人物たちそれぞれのきめ細やかな心情を、ジェニーの高らかな歌声に乗せながら見事に描いている
[Jenny Lind]
I'm trying to hold my breath
必死で息を潜めているの
Let it stay this way
このまま留めておきたい
Can't let this moment end
この瞬間の終わりは止められないけれど
You set off a dream in me
貴方が私の中に眠る夢(恋)を目覚めさせたの
この歌詞を歌いながら、舞台袖に立つバーナムに熱い視線を送るジェニー
その意味ありげな目線に、思わず笑みを浮かべるバーナム
(でもきっと、ジェニーの真意には気が付いていない)
その2人の様子を見て、一抹の不安を抱くチャリティー。その胸のざわめきを宥めるかのように、両手を触れ合わせる
Getting louder now
次第に大きくなる
louder
高い、 大声の、 音が高い
Can you hear it echoing?
この鳴り響く音(胸の鼓動)が聞こえるかしら?
echoing
響く、反響する
Take my hand
手をとって
アンに秘かな恋心を抱くカーライルは、勇気を振り絞りそっとアンの右手に触れる
Will you share this with me?
私と分かち合ってくれる?
触れるカーライルの指に、アンは戸惑いと期待を併せ持つ様子
'Cause darling without you
もう、貴方なしでは、、
All the shine of a thousand spotlights
千のスポットライトが放つ光(を浴びて)も
shine
光、輝き、光沢、つや
All the stars we steal from the nightsky
夜空から手に入れた全ての星(の燦めき)すらも
steal
盗む、(…を)こっそり取る、うまく手に入れる
響き渡るジェニーの歌声に、バーナムの表情は見る見る変わっていく
まるで壮大な大海原を眺めるような、傑作と謳われる絵画を目の当たりにしたような
Will never be enough
決して満たしてはくれないわ
never
いまだかつて…ない、一度も…しない、決して…ない、一つも…ない、まさか…ではあるまい、…でない
*ある状況が生ずる頻度がゼロであることを示し「いかなるとき[状況]においても…ない」という強い否定を表す
Never be enough
決して満ち足りることはないの
Towers of gold are still too little
黄金の塔でも足りないわ
too little
short, soon, quick
あっけない、少なすぎる
These hands could hold the world but it'll
たとえ世界を手に入れたとしても
カーライルは、アンが自分と同じ気持ちを抱いてくれていると信じて、強く手を握りしめる
Never be enough
決して満たされることはないの
アン、嬉しそう
Never be enough
決して満足できないわ
大勢の観客に向けて歌うジェニー。でも彼女が本当にこの歌を捧げているのは、舞台袖に立つ彼にだけ
For me
私の心は
Never, never
決して、決して
Never, never
絶対に、絶対に
Never, for me
私を満たしてはくれない
いま彼女が本当に欲しいものは、栄誉でも名声でも富でもない。
それではこの疼く胸を癒せない。空虚な心を満たせない
For me
私のことは
Never enough
満たせない
Never enough
満たせない
恋する女性が望むものは、唯ひとつだけ
Never enough
満たしてくれない
バーナムは夢中で彼女を見つめ、その歌声に聴き惚れている
でも。彼の視線は、ジェニーから観客達に移る
For me
私は
For me
私には
普段バーナムのサーカスを扱き下ろす記者も、馬鹿にする上流社会の人々もみんな、ジェニーの歌に心奪われている。それを見てバーナムは「これはとんでもない歌姫を見つけた。この興業は成功するぞ!」と確信の笑みを浮かべる
ここで、ジェニーとバーナムは互いに向ける気持ちがまるで異なることが分かる
ジェニーは、恋い慕う男性としてバーナムを見ている
バーナムは、プロの歌手としてジェニーを見ている
For me
私にとっては
バーナムはジェニーの歌声に間違いなく感動しているけど、その胸の大半を占めるのは、興業の成功が確信できた喜び
All the shine of a thousand spotlights
千のスポットライトが放つ燦然とした光も
All the stars we steal from the nightsky
夜空から盗んだ遍く星を以ってしても
Will never be enough
決して満たされることはない
Never be enough
決して満たしてはくれないの
Towers of gold are still too little
黄金の塔なんてまるで足りない
アンと手を握りながら歌を聴ける喜びに浸っていたカーライルは、ふと両親が自分に向ける視線に気が付く
These hands could hold the world but it'll
たとえこの手が世界を掴んだとしても
両親の視線に込められた感情は、軽蔑
見世物小屋の一員である身分の低い黒人女性と、手を取り寄り添っている息子を、咎め・恥じ・侮蔑する
Never be enough
決して満足できないの
カーライルはその視線に耐えられず、あれだけ固く握っていたアンの手を離してしまう
Never be enough
決して満たされることはないわ
アンはカーライルが自分の手を離したことにショックを受け、離された自分の右手と、自分を見てくれないカーライルを悲しい瞳で見つめる
For me
私の心を
アンは悲しそうに立ち去ってしまう
カーライルは、彼女を追いかけることができない。それと引き換えに失うものが恐いから
ここが観ていて一番胸を締め付けられた
差別や偏見は根強い。私の祖母は昔、履歴書に「華族・士族・平民」のいずれかを書かなければならなかったと話していた。身分によって就ける職業に差を付けられるのだと
ただでさえバーナムのサーカスに肩入れして、両親の期待から外れているカーライル。これ以上両親から失望されるのは耐えられない
差別・偏見を受ける立場のアンは、自分が彼と結ばれるなんて希望を抱いたことが愚かだったとばかりに、サッと背を向け立ち去る。ふたりの間を邪魔する見えない壁の存在を、まざまざと感じさせる見事なワンシーンだった
Never, never
決して、決して
Never, never
絶対に、絶対に
Never, for me
満たしてはくれないの
For me
私のことを
Never enough
決して満たしてはくれない
Never, never
決して、決して
素晴らしい歌声のジェニーを、ただただ熱い眼差しで見つめるバーナム
その姿を妻に見られていることに、そして小さくはない不安を抱かせていることに、彼は気が付かない
Never enough
絶対に、絶対に
ジェニーの歌声が素晴らしければ素晴らしい程、そして夫がその姿を熱く見つめれば見つめる程、彼女の胸はざわめき、揺らぎ、嫌な予感を抑えきることができない
Never, never
絶対に、絶対に
Never enough
絶対に、絶対に
For me
私を
For me
私のことを
ジェニーは最後までバーナムへの想いを込めながら、優しく切なく、歌声の波を収束させ、曲は静かに終わる
For me
私の胸を
For me
私の心を
映画を観ていない方々には、ぜひ観て欲しい。この一曲だけでも本当に感動する